2022年に観た映画

2022年に観た映画のランキングです。


注意としては、あくまでも私自身が2022年に観た映画のランキングであって、2022年に公開された新作映画のランキングではありません。
比較的新しい作品の初鑑賞を対象とし、古い映画や再鑑賞は除外していますが、今回は旧作の部類にも収穫があったので、そちらもランクインさせています。
日本映画と外国映画、それぞれのベスト10を作りましたので、どうぞ御覧ください。


《日本映画》

第1位『すずめの戸締まり』(2022)


新海誠監督は『君の名は。』以降、それまでのセンチメンタリズムに偏った作風から、よりストレートに大衆の琴線を打つ作品を作れるようになりました。
本作は『君の名は。』以降の監督の一大テーマと言うべき「災害」を前面に押し出し、明確に3.11の震災を扱っています。
実社会を反映した現実要素と神がかりな非現実要素、美しく流麗なアニメーション、今回も監督の個性が強く出た作品でした。



第2位『ハッピーアワー』(2015)


濵口竜介監督の話題作『ドライブ・マイ・カー』が面白かったので、昨年は濵口監督の過去作をいろいろ観ましたが、メジャーデビュー前の本作には特に衝撃を受けました。
濵口監督特有のセミ・ドキュメンタリー的手法を最も突き詰めた作品であり、俳優陣はプロではない演技ワークショップの人々で、普通の映画的な演技とは違う、意図的に抑えた演技を徹底しています。
また、上映時間が5時間以上と、日本の劇映画としては最長の部類であり、一つ一つの場面がとにかく長いです。
しかし、これが退屈するどころか面白いのだから凄いです。
上記の手法と相まって、我々観客もその場に居合わせるような緊張感があり、まるでテオ・アンゲロプロスの作品を観ているような重厚な感覚を味わえます。
主演女優4人全員が同時に女優賞を受賞するというのも前代未聞であり、映画賞における常識をも打ち破る作品でした。


第3位『すばらしき世界』(2020)


殺人の罪で13年の懲役から出所した男を主人公とし、彼と社会との関わりを描いたヒューマンドラマ。
西川美和監督は『ゆれる』以降、優秀な作品を多く手掛けていますが、本作も社会派要素を強く出しつつ、人間の内面に迫る作品として、相当見応えがあります。
主演の役所広司はもちろん、脇を支える俳優陣も素晴らしかったです。


第4位『アンダードッグ』(2020)


日本のボクシング映画では『どついたるねん』が名作ですが、本作はそれに続く新たな代表作と言えましょう。
本作は前編・後編に分かれており、全部合わせると4時間半以上の長尺になります。
序盤から性と暴力の場面を多く交えながら、ボクサー達の人生模様を描き、終盤の熱い試合へと繋がる粘着質な描き方には凄味を感じました。


第5位『君は永遠にそいつらより若い』(2021)


青年期のモヤモヤを上手く表現した青春映画で、とっ散らかった内容ながら悩める青春模様を描き、大いに気に入りました。
ちょっと変わった二人の女学生が、自分を見つめ直してちょっと前向きに変わっていく物語。
時に重い内容を含みながらも、爽やかな後味を残し、良い余韻に浸れます。
主演の佐久間由衣奈緒の身長差コンビも面白く、二人とも好演でした。


第6位『子供はわかってあげない』(2021)


沖田修一監督はこれまで独特な空気感の作品を手掛けてきましたが、この作品が一番気に入りました。
一夏の青春を描いた作品ですが、可笑しみに溢れながら独特のテンポで進むので、他にはない面白味がありました。
ヒロイン・美波(上白石萌歌)の深刻な場面ほど笑ってしまうという性質が面白く、クライマックスの告白シーンには大いに笑わせてもらいました。


第7位『ちょっと思い出しただけ』(2022)


元ダンサーの男とタクシードライバーの女、二人の6年間を描いた恋愛映画。
現在から一年ずつ時間が巻き戻っていくという、クリストファー・ノーラン監督『メメント』の期間を長くしたような形式で物語が進行します。
二人が既に破局しているコロナ禍の現在から始まり、コロナ前の二人の幸福だった過去へと進んでいく様子は、何とも言えない切ない気持ちになりました。


第8位『本気のしるし〈劇場版〉』(2020)


星里もちるの漫画を原作としたTVドラマを、劇場用に再編集した作品です。
他人に依存するヒロインと、そんな彼女に巻き込まれながらも放っておけない主人公の関係を描いた、変則的なロマンス作品です。
ヒロインの男に守られる立場から、次第に守る立場が浮かび上がってくる人物造形が、特に面白かったです。


第9位『ドライブ・マイ・カー』(2021)


濵口竜介監督作品では『ハッピーアワー』が凄かった分、順位は落ちていますが、話題作である本作も面白かったです。
監督の得意とするセミ・ドキュメンタリー的手法が素晴らしく、クライマックスの演劇も感動的でした。
昨年はとにかく濵口竜介監督作品が収穫で、『偶然と想像』もエリック・ロメール的な感覚が楽しめる作品でした。


第10位『シン・ウルトラマン』(2022)


10位以降は同率の作品が多く、どれにしようか迷いましたが、話題作で娯楽性の高い本作を選んでみました。
『ウルトラ』シリーズのパロディ満載であり、ヒーロー映画だけど子供向けではない内容が楽しめました。
シン・ゴジラ』同様、人類に対して悲観的でありながら希望を捨てていない見方も面白いです。



《外国映画》

第1位『ザ・ビートルズ : Get Back』(2021)


ビートルズの「ルーフトップ・コンサート」と、そこに至る経緯を綴ったドキュメンタリー映画
昨年は音楽絡みのドキュメンタリーをいくつか観ましたが、この作品は別格でした。
1970年に公開された映画『レット・イット・ビー』で未使用のまま保管されていた大量の映像を、ピーター・ジャクソン監督が現代の技術で復元し再構築した作品です。
全編で8時間近くにも及ぶ超長尺であり、『レット・イット・ビー』の超拡大版と言えます。
メンバー間の決裂ばかりを取り上げて重苦しい雰囲気だった『レット・イット・ビー』とは違い、メンバー間の楽しげな様子も多く含み、喜怒哀楽をふんだんに詰め込んだ本作は、まさにビートルズファンが長年見たかった作品でしょう。
ビートルズファン垂涎の超貴重映像集で、ロックファン、音楽ファンも必見です。


第2位『ベルファスト』(2022)


これまでシェイクスピア作品の映画化を多く手掛けてきたケネス・ブラナーですが、自伝的要素を取り入れた本作こそ、彼のフィルモグラフィの中でも最高の作品と言えましょう。
良い意味でケネス・ブラナーらしくなく、家族愛、郷土愛を主軸に、気取らず素直に作られているのが、非常に好印象でした。
(バリー・レヴィンソン監督の傑作『わが心のボルチモア』を思い出しました。)
モノクロを基調に、カラーを取り入れた画面の使い方も素晴らしいです。


第3位『ゴヤの名画と優しい泥棒』(2020)


1961年にロンドンのナショナル・ギャラリーからフランシスコ・デ・ゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた実際の事件を元に、その真相をユーモラスに描いたコメディ映画。
事実は小説より奇なりを地で行く物語で、ミステリーとしても優秀です。
全編に洒落っ気たっぷりで、やはりこういう上品なユーモアを描かせると、イギリス映画が一番ですね。


第4位『ブルー・バイユー』(2021)


韓国系アメリカ人であるジャスティン・チョンが主演・脚本・監督を兼任した力作。
国際的な養子縁組の問題を扱っており、アメリカで家庭を持ちながら、30年以上前の書類の不備により、韓国に強制送還される男の悲劇です。
多くの観客に馴染みの薄い問題を浮き彫りにしつつも、叙情的なムードが濃く、ドラマ映画としても優れた作品です。


第5位『THE BATMAN -ザ・バットマン-』(2022)


バットマン』新シリーズの第一作。
時代が進むたびに、どんどん暗い内容になっていく『バットマン』シリーズですが、本作の暗澹たる内容など、最早一般的なヒーロー映画の尺度では測れないものです。
主人公のバットマンは復讐の鬼であり、連続殺人事件を追うハードボイルド・ミステリーの要素が強いため、これまでのヒーロー映画とは一線を画しています。


第6位『白い牛のバラッド』(2020)


日本に輸入されるイランの映画はどれもハイレベルで、本作もその強いメッセージ性から、規制の厳しいイラン本国では上映禁止となっています。
イランにおける死刑制度、シングルマザーの問題を扱い、人間劇、社会派ドラマとしても優秀な作品でした。
終盤、真実を知ったヒロインの姿と、彼女が選ぶ結末は印象的でした。


第7位『ウルフウォーカー』(2020)


アイルランドカートゥーンサルーン制作のアニメ映画で、トム・ムーア監督の「ケルト三部作」の第三作です。
宮崎駿のアニメを真似た作品は数あれど、その深遠なテーマ性に及ぶものは殆どありませんが、本作は宮崎駿の世界観を投影した数少ない作品と言えましょう。
監督作品特有の濃厚なケルト要素、人物のグラフィカルなデザイン、背景の細密な描き込みも健在でした。


第8位『アイダよ、何処へ?』(2020)


ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を描いた作品はコンスタントに作られていますが、その中でも特に胸に迫る作品です。
戦争という極限状態の中、家族を救う為ひたすら奔走するヒロインの人間的な姿が胸を打ちます。
この戦争と似た状況にあるロシア・ウクライナ戦争が早く終わることを願います。


第9位『ナワリヌイ』(2022)


プーチン派の政治活動家アレクセイ・ナワリヌイと彼の毒殺未遂事件を扱ったドキュメンタリー映画
ドキュメンタリーでありながら劇映画のような感覚もあり、スパイをあぶり出す場面など、まるでサスペンス映画を観ているようでした。
こんな映画のような出来事が、世界では現実に起きているのだと痛感させられます。


第10位『ブータン 山の教室』(2019)


ブータンの映画は初めて観ましたが、この作品は素晴らしいです。
ブータンの僻地に送られた教師が奮闘する物語。
最初こそ無気力だった教師が、子供たちの無垢な期待に応えるため、やがて熱血教師ぶりを発揮する様は胸を打ちます。
地方が舞台の教師映画というジャンルでは、チャン・イーモウ監督『あの子を探して』以来の秀作でしょうか。