yukimuraのメモ帳 ver.2

ルパン三世 カリオストロの城

ルパン三世 カリオストロの城』(1979)
評価 : ★★★★★☆


モンキー・パンチ原作のTVアニメ『ルパン三世』の劇場映画第2作。
監督・脚本は宮崎駿

1月の記事に簡単な感想を書いたものの、やはり何度観ても素晴らしい作品なので、改めて個別の感想を書くことにします。
そして評価について、これまで★1~5の五段階評価でしたが、やはりその中でも特別に優れた作品については、★6以上の採点を付け☆をプラスして表記することにします。

以前の私は『天空の城ラピュタ』を★6、本作を★5の評価にしていましたが、昨年に続いて二作品を再鑑賞する機会があり、じっくりと比較検討してみました。
熟考した結果、やはり『ラピュタ』よりも上に位置して然るべき作品だと思い、二作品の採点・順位を入れ替えました。
その結果、本作は個人的なジブリ映画のベスト5に入る作品となりました。
(ここで言う「ジブリ映画」の中には、本作や『風の谷のナウシカ』など、厳密にはジブリ設立以前の宮崎駿作品も含んでいます。)

これまで高畑勲らと共に作品を手掛けてきた宮崎駿ですが、TVアニメ『未来少年コナン』で監督を務め、そして本作が映画としては初の監督作品となります。
宮崎駿はこの時点で既に、今でも語り継がれる多くの名作を手掛けていますが、本作も出来が素晴らしいにも拘わらず、興業収入は伸びていません。
宮崎駿が世間に広く認知されるのは『ナウシカ』からで、この頃はまだ一部のアニメファンに認知されるに留まるという不遇な状況だったようです。
それでも一部の批評家やファンからは絶賛されていましたし、この当時から注目していた人たちは慧眼の持ち主と言えましょう。

TV第1シリーズの初期は、当時のアニメとしては大人向けの内容だった『ルパン三世』ですが、途中で参加した高畑勲宮崎駿の手により、よりコミカルで大衆的な現在の『ルパン三世』の方向性が決定しました。
本作はその方向性を引き継ぎつつ、宮崎駿の独自色が加えられています。

本作は『ルパン三世』のコミカルな面白さを維持しつつも、そこにモーリス・ルブランの『アルセーヌ・ルパン』シリーズの要素を取り入れています。
『アルセーヌ・ルパン』のファンならタイトルからお察しのように、シリーズの一作『カリオストロ伯爵夫人』の要素を取り入れたわけですね。

カリオストロ伯爵夫人』は、若き日のルパン最初の冒険を描いた作品で、ルパンの最初の妻となるクラリスが登場し、歴史とミステリーとロマンスを融合させた、私がシリーズでも一番気に入っている作品です。
本作に登場するクラリスは、まさに小説のクラリスのイメージにぴったりの可憐な少女であり、それだけでも『アルセーヌ・ルパン』のファンにとっては嬉しくなります。
そんな可憐な少女を守るため、悪漢を相手に立ち向かう冒険譚には、他の『ルパン三世』にはない強いロマンチシズムを感じます。
本作のルパン三世の怪盗紳士ぶりも、アルセーヌ・ルパンを彷彿させ断然格好良いです。

内容については最早説明不要という感じではありますが、いざ観直しても、何でこんなにも面白いのだろうと、その出来栄えには惚れ惚れします。
他の『ルパン三世』のような荒唐無稽さはなく、意外なほどストーリーのきちんとした冒険サスペンスに仕上がっています。

贋札作りに絡んで世界一小さな国家カリオストロ公国にやってくる導入部から、カーチェイス、城での誘拐、結婚式での花嫁奪還、時計塔での一騎討ち…。
しっかりした骨格のストーリーが、アニメファンなら誰もが知る鮮やかな名場面に彩られながら繰り広げられ、その一々が素晴らしいです。
このロマンチックな冒険譚を、宮崎駿はダイナミックに画面を動かし、一片の揺るぎもなく見せ切っていて、見事としか言い様がないです。
ラストシーンの銭形警部の有名なセリフも、実写作品なら照れてしまうような場面ですが、アニメなら嫌味がないですし、私自身もクラリス同様に心を奪われてしまいました。

映像も話運びも流麗で、ここまで高純度の作品を作れるアニメ作家は宮崎駿しかいないです。
やはりアニメ史に残る傑作と言うべし。
宮崎駿は最早アニメ界のみならず、日本が誇る映像作家と言っても過言ではないです。
黒澤明小津安二郎らと同列に語りたくなるアニメ監督なんて、後にも先にも宮崎駿ただ一人でしょう。