『1000xRESIST』(2024)
評価 : ★★★
sunset visitor(斜陽過客)によるADV。
カナダのインディースタジオが開発したSF作品です。
発売されるや世界中のユーザーから高評価を獲得したADVであり、私も日本語のローカライズを楽しみにしていて、この度日本語化されたので早速プレイしました。
結果的に、期待したほどの手応えはなかったものの、なかなかに興味深い作品でしたし、私のようにブログで感想を書く人間にとっては良い教材となる作品だと思いました。
と言っても、今の私は本作について深く分析するほどの精神的な余裕はありません。
熱心なユーザーの方々が詳しく書いてくれるでしょうから、私からはある程度ざっくり述べることにしましょう。
1000年後の未来、異星人「占有者」が持ち込んだ疫病が広まった世界、「果樹園」と呼ばれる地下シェルターが舞台です。
「すべての母」と呼ばれる人類で唯一免疫を持ち占有者と戦える女性・アイリスと、彼女に仕える「シスター」と呼ばれるクローンたちの物語が描かれます。
主人公はシスターの一人・ウォッチャーで、彼女はアイリスの記憶を再現し、その栄光を讃える使命を帯びた存在です。
プレイヤーはウォッチャーを操作し、アイリスの記憶から過去を追体験していきます。
まず本作は、開始早々、ウォッチャーがアイリスを殺す場面から始まり、彼女達に一体何があったのか?というサスペンスで興味を惹きつけます。
しかし、本来なら衝撃的な場面のはずなんですが、開始時点ではまだプレイヤーは作品世界のことがまだ解らない状態なので、いまいちピンと来ない感じでもあります。
しかも本作は、序盤から「赤から青へ」「シックス・トゥ・ワン」「髪の絆」など、この世界独自の用語を何の説明もなく多用します。
これらの用語の意味はある程度進めないと解りません。
本作はとにかく、この序盤の説明を怠っているのがマイナスで、これでは独善的と言われても仕方ないでしょう。
また、本作のスタッフは日本の作品から強い影響を受けたと語っており、具体的な作品名としては『NieR:Automata』『パーフェクトブルー』『新世紀エヴァンゲリオン』などを挙げています。
本作の世界設定はまさに『NieR:Automata』ですし、なるほどという感じですね。
現在と過去、現実と虚構、これらが混交する見せ方は今敏監督作品を思わせます。
確かに『パーフェクトブルー』や『パプリカ』が好きな人には合いそうだと感じますが、現実と虚構が良い具合にせめぎ合っていた『千年女優』が一番好きな私みたいな人間にとっては、少し好みからズレる感じではありましたね。
『新世紀エヴァンゲリオン』もなるほどという感じで、作中では所々TV版の最終回辺りを思い出させる場面があります。
作品全体でも人類補完計画っぽいことをやってますしね。
このように日本の作品からの影響は強く感じられますし、その元を辿れば『幼年期の終わり』『2001年宇宙の旅』『ソラリス』などの昔のSF作品が思い浮かぶことでしょう。
本作はそこに現代の作品らしく、アイデンティティ、人種差別、世代間トラウマといった複数のテーマに取り組んでいます。
非常に多くのテーマを内包した作品であり、それら多様なテーマを綜合した世界観に立脚した物語をきちんと描ければ、それこそドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』SF版と言える大作が誕生したことでしょう。
しかし、複数のテーマ、時系列操作、専門用語で複雑な作品に見せているものの、本作の大筋のストーリーを紐解けば、そこには特別な新味や面白味があるとは言えないと思います。
結局のところ、単一のテーマ、単一の時系列で面白く見せるのが難しいから、複雑にすることで面白く見せようとする、90年代以降増えてきた作品群と本作に大きな違いがあるとは思えません。
グラフィックに関しては、インディーゲームらしい味はあるものの、やはり古めかしい感じですし、人物の造形も可愛げがなく、日本人には受けないでしょう。
画面は、場面によっては良く言えばアート的ですが、悪く言えばストーリーと相まって抽象的です。
この映像表現を高く評価する人もいますが、映像では映画やアニメには及びませんね。
そしてゲームとしてはどうなのかと言えば、ADVの中でも殆どウォーキングシミュレーターに近く、そこに少しのゲーム性を加えた感じです。
ウォーキングシミュレーターは、言ってみれば歩き回ることが主目的であり、例えるなら謎解きの無いADV、戦闘の無いRPGのようで、メインとなる要素が欠けており、ゲームとしてのやり応えは薄いです。
特に本作の主な舞台となる果樹園は、中途半端に広い上、微妙に道が迷路みたいになっていて、そこで人を捜し回らなきゃいけない時などストレスが溜まりましたね。
そこで本作の肝となるのが、時系列を移動する能力で、これを上手く活用できていればSFゲームとして格段に面白くなっていたことでしょう。
しかし、本作でのこの能力の扱いは、行き止まりにぶつかっては移動するという、ごく単純なパズル要素に過ぎず、ゲームとしては効果的に活かされていません。
これは本当に残念でした。
所々挿入される空間移動のパートも、アクションゲームもどきに過ぎませんでした。
以上のように、全体では一定の楽しさはありつつも、ストーリーは新味も薄く独自性も今一つ、グラフィックもゲーム性も物足りませんでした。
しかし、こういうインディーゲームが出てきたのは興味深いと思える作品でした。
それにしても、世間では絶賛されており、オールタイムベスト級だと言うゲームライターの人もいます。
確かに本作のようなタイプの作品は世間では絶賛されがちですが、素人ならともかく、仮にもプロのゲームライターという人が本作を無条件に絶賛するのもどうかと思います。
そもそもゲームライターという人達は、観念的で自己満足的な文章を書く人ばかりで、それがどれだけ高級な文章だろうと、私は読む気も起こりません。
正直プロのゲームライターという人達で、私がこの人の感想は信用できると思う人など、ただの一人も存在しません。
仮にもプロなら、もっとしっかりして欲しいですが、まあ期待はできないでしょうね。
結局、彼らには任せておけないから、私たち素人が頑張るしかないんでしょうね。
(と言いつつ、一段落したので暫くブログはお休みします)