yukimuraのメモ帳 ver.2

Invisible Ink

『Invisible Ink』(1921)
評価 : ★★★★★


フライシャー兄弟が手掛けたアニメ映画。
アメリカ・アニメーションの黄金時代を支えた偉大な存在として、ウォルト・ディズニーと並び称されるのがフライシャー兄弟です。
兄のマックス・フライシャーがプロデュースし、弟のデイブ・フライシャーが監督を務めています。
彼らの初期の作品は、ディズニーよりも先駆けて、アニメの世界に新たな技術を持ち込んでおり、特に重要度が高いです。

彼らが手掛けた作品では「ベティ・ブープ」「ポパイ」「スーパーマン」などのシリーズが有名です。
それらの作品に知名度は劣りますが、彼らが最初期に手掛けた「Out of the Inkwell」(インク壺の外へ)というシリーズがあります。
道化師ココを主人公にしたシリーズで、画期的な技術を取り入れた作品群です。

内容としては、実写でマックス・フライシャーが登場し、彼がインクで道化師ココを描くところから、物語は始まります。
それにより命を吹き込まれたココが動き出し、冒険を繰り広げたり、生みの親であるマックスと小競り合いをします。
最終的には、ココがインク壺の中に戻ることで、物語が終わります。
これがシリーズにおけるお決まりのパターンです。
1918年からシリーズが開始し、途中「Out of the Inkwell」から「Inkwell Imps」に名前を変えながら、合計100作品以上が作られます。

技術的な面では、彼らが発明したロトスコープの技術を取り入れています。
ロトスコープとは、まず実写映像を撮影し、それを素材にしてアニメーションを制作する手法です。
これにより実際の人間のような滑らかな動きのアニメーションを実現し、当時の他のアニメを圧倒する高品質な出来に仕上がっています。
本作では、弟のデイブが道化師の衣装を着て、その演技を元にアニメが作られており、まさに兄弟二人による共演です。

もう一つの技術として、このシリーズの一番の特徴と言えるのがロトグラフです。
実写映像とアニメーションを合成するのに用いた装置・技術のことで、これにより実写のマックスとアニメの道化師ココが実際に共演しているかのような感覚を味わうことができます。
後の特撮技術・マットペイントの先駆けのようなもので、ロトスコープと合わせて、この時代にこれらの技術を開発したフライシャー兄弟は凄いです。

そこで今回紹介するのが「インク壺」シリーズの一作で、1921年に制作された『Invisible Ink』です。
シリーズの中でも私が特に面白いと感じた作品で、時代を考慮すると驚異的な出来栄えでしょう。
ちなみに、本作のような大昔の作品はパブリックドメイン化しており、ネット上で閲覧可能です。
百聞は一見にしかず、下の動画を御覧ください。


見ての通り、本作はこのシリーズの特徴である実写とアニメーションの融合、それを全編に渡って繰り広げ、特に効果的に見せています。
その後のシリーズは、確かにアニメーションは進化していきますが、実写とアニメの融合度に関しては、徐々に下がっていくように感じます。

個人的にこのシリーズの面白さは、実写とアニメ、作者と創作されたキャラクター、両者がやりとりするメタ的な面白さにあると思っています。
作者とキャラクターがやりとりする、ウィンザー・マッケイなど初期のアメリカ・アニメーションの伝統を受け継ぎながら、それを当時最先端の技術で再現した本作は、文句なしに面白いです。

後の時代にも実写とアニメを組み合わせた作品は作られますが、こんなにも早い段階から実写とアニメの融合を果たし、高い完成度で示した作品が存在するとは、本当に驚きです。
個人的には、本作こそがフライシャー兄弟の独自性と革新性を最も感じさせる、「インク壺」シリーズ最高の一作だと思いますね。