yukimuraのメモ帳 ver.2

神々の山嶺

神々の山嶺』(2021)
評価 : ★★★★


夢枕獏の小説が原作のアニメ映画。
谷口ジローによる漫画版を元に、それをフランスの制作でアニメ映画化したものが本作らしいですね。
2016年に平山秀幸監督の実写映画版が作られましたが、企画自体は本作のほうが先らしいです。

語り手はクライマー兼カメラマンの深町誠で、彼の視点から物語は始まります。
「イギリスの登山家ジョージ・マロリーは本当にエベレストを登頂したのか?」という実際の登山界の謎を絡めて、深町誠がその真相を追う形で進行します。

それと並行し、かつて失踪し行方不明中の登山家・羽生丈二の物語も描かれ、深町誠が調査する中で彼の過去も語られます。
登攀の天賦の才を持つ彼が、いかにして登山家として名を上げていったのか、そして何故失踪に至ったのかが描かれていきます。
描かれる比率からいっても、羽生丈二に関する場面が多く、彼が実質の主役と言えます。

物語の後半は、深町誠と羽生丈二の両者が合流します。
ここからは、羽生丈二が前人未到のエベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑む姿がひたすら描かれます。
一応終盤にジョージ・マロリーに関する謎は明かされますが、それ以上に、羽生丈二という男の登山に対する姿勢、それこそが本作が描く眼目となる部分です。

私は原作は未読で、実写映画版を既に観ています。
実写版の評価は★3で、なかなか興味深いと思いながらも、全体では物足りなさも残る作品でした。
その点、本作は実写版よりも要素を絞った分、純度が高く仕上がっていて、こちらのほうがオススメできます。

特に、登山に命を懸ける羽生丈二の物語として、グッと焦点を絞った内容は素晴らしいです。
山岳に挑む人間の心境は、凡俗なインドア派である私にはなかなか理解できないものですが、「そこに山があるから登る」という男の哲学・執念には、強い畏敬と畏怖の念を感じます。

また、映像についても注目すべきでしょう。
フランス制作のアニメというと、人物のデザインはシンプルな作品が多いですが、近年ではミッシェル・オスロ監督『ディリリとパリの時間旅行』など、人物の容貌は実際の人間に近い作品もあります。
本作はそれよりも極めてリアル寄りで、まさに本物の人間らしいデザインですね。
山岳などの風景も写実的で、映像的に厳しくも美しいです。
登攀シーンの描写の本物らしさもあり、緊張感がありました。

アニメでこうしたリアルさを描くことに対して、見方によってはアニメとしての面白味が薄いと感じるかもしれません。
私も以前は少なからず、そうした考えを持っていました。
しかし最近では、『THE FIRST SLAM DUNK』のまるで自分もその場に居合わせるようなリアルな試合シーンには驚かされたこともあり、その考え方も変わってきました。
アニメでこうしたリアルさを追求する凄みのようなものが、私もだんだん解ってきたような気がします。

総じて高品質な作品なので、山岳という題材に興味がある人、リアルなアニメを観たい人にオススメします。