yukimuraのメモ帳 ver.2

星のオルフェウス

『星のオルフェウス』(1979)
評価 : ★★★★★


サンリオ製作のアニメ映画。
ハローキティなど可愛らしいキャラクターで人気のサンリオですが、一時は映画事業にも進出し、アニメを中心に実写も含めた映画を多く手掛けています。

サンリオと言うと可愛らしいイメージが強いですが、この時期に作られたサンリオ・アニメはどれも一癖ある作品ばかりです。
サンリオの初代社長は、明確に「ディズニーを越えたい」という目標を抱いており、その野心が作品にも表れているように感じます。
アニメだけでなく、実写作品を手掛けている点でも、ディズニーへの意識を感じさせます。

この時期のサンリオ作品の特徴として、本場アメリカのアニメーターが参加しており、まさにディズニー・アニメのような滑らかなフル・アニメーションを実現しています。
本作は、そんなサンリオ・アニメの中でも一番の大作であり、制作期間6年、制作費26億円、原画数15万枚という、この数字だけでも大作ぶりが伝わります。
圧倒的クオリティで作られた本作は、まさにディズニー・アニメの傑作『ファンタジア』を初めて観た時のような衝撃がありました。

内容としては、タイトルにもあるように、ギリシャ神話に登場する吟遊詩人オルフェウスの挿話があり、他にもアクタイオン、エンビー、ペルセウス、パエトーンの挿話も含んだ、全部で5つのエピソードを連続で見せるオムニバス形式で進行します。
オルフェウスとその恋人エウリュディケーの話は「決して振り返ってはいけない」という冥界下りのシーンが有名ですが、日本神話のイザナギイザナミの話にも似ていますね。

オルフェウスの神話を題材にした映像作品は結構作られていますが、幽玄な『オルフェ』(1950,ジャン・コクトー)、熱狂的な『黒いオルフェ』(1959,マルセル・カミュ)の2作品が特に印象に残っています。
本作もこの2作に並ぶ出色の出来栄えで、まさに代表作と言えましょう。
『オルフェ』『黒いオルフェ』が現代に舞台を移した翻案だったのに対し、本作はアニメーションの特色を生かし、神話の世界を美しく再現しています。

このアニメの出来がとにかく素晴らしく、まさに当時の最先端のアニメーション技術を使い、制作費・制作期間を惜しみ無く投入し、一切の妥協なく作られています。
ディズニー作品にも劣らない滑らかなフル・アニメーションで、ここまでのクオリティで楽しめる日本のアニメも珍しいでしょう。

最先端のアニメーション技術で再現された神話の世界は、とにかく圧倒的でした。
アニメでしか再現不可能な、ファンタスティックで、時としてサイケデリックな光景が、怒涛のように次々と繰り広げられます。
さらに、挿話の殆んどが悲劇的な結末を迎え、神々の怒りにふれた人間の卑小さ、愚かさ、弱さをまざまざと見せ付けられます。
子供受けはおろか、一般受けなど知ったことかと言わんばかりの内容です。
映像と物語が畳みかけるように展開し、ただただ圧巻でした。

残念ながら、この時期のサンリオ・アニメの殆んどは、一般受けしない癖の強い内容から、興行的には失敗に終わってしまったようです。
しかし、本作はサンリオ・アニメで最もディズニーに肉薄したと言える優れた作品ですし、サンリオ初代社長の採算を度外視した野心には畏れ入りました。
もっと語られるべき作品だと思いますし、アニメファンならば必見でしょう。