yukimuraのメモ帳 ver.2

どうぶつ宝島

どうぶつ宝島』(1971)
評価 : ★★★★★


東映動画によるアニメ映画。
原作はロバート・ルイス・スティーヴンソンの海洋冒険小説『宝島』。
監督(演出)は池田宏。

ティーヴンソンの『宝島』は数多く映像化されており、アニメ化作品もいくつかあります。
その中でも、1978年の出崎統監督のTVアニメ版は、海賊ジョン・シルバーを徹底して理想の男として描いた作品で、まさに決定版と言えましょう。
その他には、1965年のTVスペシャル『新宝島』がありますが、キャラクターを全て動物に置き換えた、いわゆる子供向け翻案なので、いまいち気分が乗らない作品でした。

そこで本作ですが、登場人物のうち3人は人間ですが、それ以外は全て動物に置き換えられています。
新宝島』に続いて、また動物の擬人化か…と観る前は少々落胆していました。
しかし実際に観てみると、これが素晴らしい出来で、楽しさ満点な作品でしたね。

本作のアイデア構成には宮崎駿が関わっており、後の宮崎作品の源流が感じられ、彼の大ファンである私には、非常に興味深く観られました。
内容は他のアニメ化作品同様に、原作から大きく脚色されているのですが、そこに宮崎駿の独自色、後の作品にも通じる要素が窺えます。

例えば、原作とは違い、最初に宝探しに行くのは主人公のジムと、彼の親友の子ねずみ・グランだけなのですが、その道中で、原作には存在しないヒロイン・キャシーが登場します。
キャシーは、財宝を隠して死んだフリント船長の孫娘であり、海賊の孫らしく気の強い性格の美少女です。
最初は宝の地図を巡ってジムと対立しますが、呉越同舟するうちに、次第に優しい少女になっていきます。
宮崎駿的ヒロイン像、アニメにおけるツンデレなヒロイン、その源流を感じさせる、非常に興味深いキャラですね。

動物を擬人化したキャラの中でも、敵役であるジョン・シルバー船長は豚になっています。
彼が『紅の豚』の主人公ポルコ・ロッソの元になったという話もあるようですが、かの作品が豚をストイシズムの象徴として扱ったのに対し、まだ本作の時点では、そこまで強いテーマ性を打ち出しておらず、純粋に子供向けの表現という感じです。

前回アップした『名探偵ホームズ』の記事では、子供向けの内容が欠点であると私は言いました。
しかし本作の場合は、最初から子供向けとして伸び伸び作られていて、その分却って大人の鑑賞にも堪える作品になっています。
ひたすら楽しさを追求した内容は、単純であるがゆえに純度の高い内容で、変に理屈が絡む作品よりも楽しめます。
むしろ、子供向けだからこそ良い作品に仕上がったようにも感じます。

画面もダイナミックで迫力があり、純度の高い内容と合わさり、各場面に勢いがあります。
特に冒険模様は、後の宮崎駿作品を想起させる場面も多かったです。
個人的には、船のマストの上での戦いは、高低差を意識させる作りで、非常に唸らされました。
宝島での一進一退の攻防もスリリングでしたね。

作画には宮崎駿の他、『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』の作画監督を務めた小田部羊一など、実績あるスタッフが多く関わっています。
この時期の東映動画(現・東映アニメーション)のアニメ映画は、日本初のカラー長編アニメーション『白蛇伝』以降も、特に進化が目覚ましく、アニメの出来も同時代のディズニーに優るとも劣らない作品が多いですね。

総じて、本作は最初から最後まで勢いがあり、動物の擬人化だの子供向けだのという、そうした細かい欠点を言わせるような隙を感じさせない、力強い作品に仕上がっています。
非常に楽しい純娯楽作でしたし、宮崎駿ジブリ作品の源流を感じさせる意味でも興味深い作品でした。
宮崎駿ファンは必見でしょう。