yukimuraのメモ帳 ver.2

月の女、河の天使、神めくとき。

『月の女、河の天使、神めくとき。』(2023)
評価 : ★★★


同人サークル・サキュレントによる18禁女性向けノベルゲーム。
途中に選択肢は一切ないので、完全に物語を読ませるタイプの作品です。

シナリオを手掛けた山野詠子氏は好きなライターで、密かに応援しています。
次回作『姫の楽園』でゲーム制作を休止するようで、非常に残念に思います。
人間の内面を抉るようなテキストは好きですし、作品毎のアイデアも光るものがあります。
潜在能力は高い人だと思いますね。

映画好きな私の例えだと、他の商業作品とかが一定の洗練度はあるけど似たり寄ったりな内容が多い日本映画だとすると、山野氏の作品は粗はあるけどアイデアが豊富で馬力のある韓国映画といった感じがします。
(まったく余談ですが、韓国映画キム・ギドク監督作品なんかは結構エロゲーマー向きだと思いますね。
援助交際と宗教を結びつけた秀作『サマリア』は、特にエロゲーマー向きだと思います。
あとは『悪い男』とか。
昔の日本映画なら今村昌平監督作品とかもね。
話が逸れるので、余談終わりです)

山野氏のシナリオは個性的で光るものがあります。
もちろん、作品を評価する上で個性は重要な要素ですが、それだけに拘りすぎても良い批評はできません。
いかに個性があっても、そこに技術や内容が伴わなければ、結局のところは絵に描いた餅で終わってしまいます。
その点では、山野作品にはまだ足りない所があります。

本作は、病気と孤独を抱えるヒロイン・ひだり、彼女の初めての理解者となる青年・ミギ(実は世間を騒がす殺人鬼)、二人の物語です。
二人の関係は、恋愛という生温いものではなく、描かれるのは破滅的な激情です。
社会から疎外された男女、二人の関係を通して剥き出しの人間の姿を見せようとする物語は、山野氏の得意とする作風でしょう。

私は前半はかなり楽しみました。
メインの二人は極端な人間ではあるけど、そこには実感が伴う部分もあり、少なからず共感できる部分もあります。
二人の会話も面白かったですね。

問題は後半から結末ですね。
タイトルに「神」とあるように、二人の仲が深まるにつれ、その関係性はやがて神性を帯びていきます。
確か山野氏自身も言っていたように、本作は尖った内容であるし、刺さる人には深く刺さる作品でしょう。
しかし、どうにも私の好みと少しずれる作品でしたね。
形而上的な主題に引き摺られて、作品全体の印象も形而上的になってしまった憾みがあります。

やはり凡俗の私にとっては、実感の伴った解り易い作品の方が好きです。
その点『とも鳴りの舟』は現実的な部分が良く描けていましたし、山野氏の代表作と言えましょう。
山野氏には、観念的な物語より現実的な物語を描き切って欲しいです。
最後のゲームとなる次回作も楽しみにしていますし、欲を言えば、またゲーム制作に復帰して欲しいですね。