yukimuraのメモ帳 ver.2

早咲きのくろゆり

『早咲きのくろゆり』(2023)
評価 : ★★★★


サークル・1000-REKAによる同人ゲームで、ジャンルは「青春百合ADV」。
基本はノベルゲームですが、そこにADV要素をプラスし、ゲーム性を増した作品です。

前々回の記事で紹介した『嘘から始まる恋の夏』に続いて、こちらも商業作品以上に高品質な同人百合ゲーです。
どうやら、どちらの作品もクラウドファンディングで目標額を大きく上回る支援を受けて作られたようで、なるほど納得の出来でしたね。

まずグラフィックですが、『嘘夏』と同様に本作も立ち絵が動きます。
やはり私は、一部のメーカーの立ち絵をパタパタ慌ただしく切り替える手法よりも、より自然なアニメーションで動く作品のほうが好きです。
イラストレーター・フカヒレ氏の描くキャラも可愛いですね。
しかし、残念ながら一枚絵は動きません。
今世紀に入ってもう20年以上も経つのだから、立ち絵も一枚絵も自然に動くという形式が、そろそろ美少女ゲーム業界のスタンダードになって欲しいです。

その代わり同人ゲーとしては珍しく、システム周りが充実しています。
本作のスタッフは、どうやらコンシューマーも手掛けた経験があるようで、その辺の配慮が行き届いていましたね。
かように、グラフィックは『嘘夏』の勝ち、システムでは本作の勝ち、という感じでした。

そして肝心のゲーム内容ですが、百合ゲーなんですが、ちょっと変則的な作品になっています。

序盤は、高校卒業を間近に控えた仲良し三人組の女の子たちの平和な日常が描かれます。
本作の主役の花は、親友の樹のことを密かに想っています。
ここまでは、基本読むだけのノベルゲームで、殆どゲーム性はありません。

物語を進めていくと、ある日突然、樹が事故で死んでしまいます。
目の前が真っ暗になった花は、気が付くと樹が死んだ日の朝に戻っています。
ここからループが開始し、不幸な結末を回避していくことになります。

ここからADV要素が加わるのですが、作品内の各所では、テキストの中にキーワードと思われる言葉が出てくる場面があります。
それらのキーワードを記憶にストックしておき、適切な場面で「割り込み選択肢」として、キーボードで言葉を入力して使うことで、新たな活路を見出だします。
適切な行動を取り不幸を回避できれば、ループから抜け出せます。
その後も何度か不幸な展開が待ち受け、都合何回もループすることになります。

フローチャートも完備されており、いつでも好きな地点に戻れますし、気になる地点には栞を挟んでおけばすぐに戻れます。
また、場面によっては画面をクリックして探索する、簡易的なP&C(ポイント&クリック)形式のシステムが導入されています。
ここでの探索でも、重要なキーワードが手に入ることがあります。

こんな感じで、ノベルゲームとしてただ読ませるだけでなく、自分で考えて遊べる要素が加わっています。
ノベルゲームにADV要素を付与した作品としては、かつての自転車創業の作品(『空の浮動産』『ロストカラーズ』など)を思い出しました。
各要素の作り込み自体は高くないものの、今ではすっかり読むばかりになったノベルゲームに、旧来のADV要素を復活させようとする作品は、今ではすっかり貴重になりました。
こうした要素を取り入れようとする制作者は、個人的にも応援したくなります。

また、本作は他の百合ゲーのように、ただ女の子同士が恋仲になるという作品以上に、ストーリー・世界設定に百合が深く関わっています。
パッと見は現代が舞台の作品っぽいですが、実際は少し進んだ未来が舞台であり、とある事情から同性愛が忌避されています。

そうした設定の中、同性を好きになることへの葛藤が描かれたり、そこに男性キャラが絡んできたりと、なかなか珍しい作品だと思います。
胸糞展開こそないものの、樹と男性キャラのカップルが成立してしまう場面もあるので、純粋に百合が見たくて男は一切見たくないという人は回避したほうがいい作品でしょう。
個人的にはその独自性が良いと感じられましたし、そうしたハードルを乗り越えていく展開も良いと感じられました。

総じて、丁寧に作られた良質な百合ゲーでした。
百合(男の絡みもちょっと有り)、ループ、ADV要素…、直球に見えて、実はいろいろ変化球を含んだ作品で、予想以上に楽しめましたね。