yukimuraのメモ帳 ver.2

パラノマサイト FILE23 本所七不思議

『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』(2023)
評価 : ★★★


スクウェア・エニックスから発売、公式のジャンルは「ホラーミステリーADV」。
パノラマ映像の他、いろんな要素を取り入れたADVです。

スクウェアエニックスもかつてはADVを作ってましたが、合併してからの作品は殆んどがRPGです。
そんなスクエニが、昨年の『春ゆきてレトロチカ』に続いて発売したADVが本作です。
世間ではかなり好評で、私自身も凄く満足とまではいかなくとも楽しめましたし、スクエニのADVとしては健闘した部類だと思います。

昭和後期の墨田区を舞台にしたホラー・オカルト色の強い内容です。
本所七不思議に関連した呪いが籠められた「呪詛珠」、その力で魂を集めることで得られる「蘇りの秘術」、それらを巡る登場人物の物語が並行して描かれる群像劇のスタイルで進行します。

序盤は、一人の主人公のほぼ一本道で話が進みますし、バトルロイヤル形式でどんどん人が死んでいきます。
この時点では、なかなかムードはあるけど、それほど面白くないという感じでした。
中盤以降は、複数の主人公の物語が語られ、これまで戦ってきた人物それぞれの事情が明らかになっていき、事件の核心に迫っていきます。
ここからは群像劇の面白味が出てきて、俄然面白くなる感じではありますね。

本作には様々なADVの要素が取り入れられています。
システム的には、基本はコマンド選択式ですが、主観視点で景色をグルリと見渡せるパノラマ映像、複数主人公によるザッピング、これらの要素が加わっています。
ストーリー的には、ホラー・ミステリーを基調とした群像劇で、そこにメタ的な要素も加わっています。

本作には過去の名作ADVを彷彿させる要素が多く見受けられ、ADVファンにとっては一定の満足を得られる作品だと思います。
特に、普段ADVをあまりやらない人が本作をプレイすると、凄く面白く感じることでしょう。
しかし、私は本作を世間ほど絶賛する気にはなれません。
一つ一つの要素は、過去の名作を超えるものが見られませんし、いろいろ中途半端な印象を受けました。

例えばパノラマ映像を挙げると、全ての場面で360度全方向見渡せる訳じゃなく、視野が限定されている場面も多くて、何だか中途半端な感じでした。
ザッピングに関しても、かつてのチュンソフトの『街』『428』のように縛りがあるため、それほど自由度はありません。

ストーリーに関しても、過去のADVをいろいろプレイした人にとって、それほど驚きや新味はないでしょう。
ホラー、ミステリー、メタ要素、そして上述のシステムなど、いろいろ欲張って取り入れていますが、どれをとっても過去の名作には及ばないでしょう。
まあコンフィグをいじったり、特定箇所でセーブすることで進む場面などは、なかなか特徴的だと思いましたね。

私が本作で気に入ったのは、昭和後期を舞台にした結構本格的なホラームード、あとは女性キャラですね。
個人的には、志岐間春恵、黒鈴ミヲ、灯野あやめが好きでした。
特にマダムこと志岐間春恵の冷たく妖艶な感じは好きでしたね。
逆に男性キャラはそこまで好きになれませんでした。
特に刑事二人のやたら軽いコミカルなノリは、ホラー・ミステリーというシリアスな題材に合いませんし、何だか野暮ったく感じました。

総合では、いろんな要素を取り入れていて、ADVファンなら一通りは楽しめますが、コアなファンを満足させられない初心者向け作品だと思います。
各要素に新味はなく、完成度も中途半端ですし、中編というボリュームもやや物足りない印象です。
逆にADV初心者の人にとっては、本作は凄い面白い作品に感じることでしょう。
世間での絶賛もそういうことだと思います。