yukimuraのメモ帳 ver.2

ハルカの国 ~大正決戦編~

『ハルカの国 ~大正決戦編~』(2023)
評価 : ★★★★


同人サークル・スタジオ・おま~じゅによるノベルゲームで、公式のジャンルは「100年のビジュアルノベル」。
途中に選択肢は一切ないので、完全に一本の物語を読ませるタイプの作品です。

スタジオ・おま~じゅの『みすずの国』『キリンの国』『雪子の国』に続く、国シリーズ第4弾の『ハルカの国』。
その『ハルカの国』は全6部作の予定で、本作は『明治越冬編』『明治訣別編』『大正星霜編』に続く4作目となります。

前回の記事では、同人ゲームの弱い所や足りない所について語りました。
私が最近感想を書いて高く評価した作品の中には、商業作品以上に高品質な作品が多かったです。
もちろん、それらの作品は規格外であり、基本的に同人ゲーは商業作品ほどの品質は望めません。
特に、商業の有名作と同じような内容の方向性であるなら、商業作品の劣化版にしかならないでしょう。

それなら、高品質な作品以外に価値はないのか?と問われれば、決してそんなことはありません。
商業作品にないような、味わいのある作品や魅力的な作品、そういう作品が存在するのも同人ゲーを探る楽しみだと思います。
そういう味わいがあって魅力的な作品、スタジオ・おま~じゅの作品にはそういう表現がぴったりであり、個人的にもこのサークルの作品は大好きですね。
(評価とは関係ないですが、作者の方が私と同じ山口県民で、さらに同年代ということで、勝手に親近感を抱いています。)

確かに本作のシステムは同人レベルだし、グラフィックの質自体も商業作品には及ばないでしょう。
しかし、立ち絵も一枚絵も数が多く、その場その場に応じた適切な絵が用意されています。
商業作品が普段手を抜いているような所にもきちんと力を入れているのには、非常に感心させられますし、作者自身の作品への強い愛情を感じます。

一枚絵自体も凄く上手いとは言えないものの、味わいがあって、場面によって画風を変えたり、中には場面と相まって凄みを感じさせるような絵で、ストーリーとグラフィックの相乗効果で魅力を発揮しています。
総合的には、絵は上手いけどあまり魅力を感じない商業作品よりも、本作の方が上回っていると言えましょう。
商業作品のクリエイターでも、本作から学べるものは一杯あると思います。

シリーズの内容としては、関東で無敵と恐れられる狼の化け・ハルカ、剣の腕前を自負し彼女に勝負を挑む狐の化け・ユキカゼ、二人の関係が中心となります。
明治、大正、昭和の史実とフィクションを交えながら、激動の時代を生き抜く人々を描いています。
「100年のビジュアルノベル」という名の通り、シリーズ全体では大河的なスケールの作品群となっています。

人間と化けが共存する世界で、狐の化けのユキカゼの視点から物語は語られます。
ハルカと出会い、彼女に敗北しながらも何度も挑み続けるユキカゼ。
次第に姉と妹、師匠と弟子のような関係となる二人。
共に明治の時代を過ごし旅をした二人ですが、時は大正に移り、それぞれ違う道を歩みます。

めまぐるしく変化する時代の中、化けの居場所はなくなっていき、人間社会に溶け込んで生活するユキカゼ。
その様子は前作『大正星霜編』で描かれます。
シリーズの中では大河的な動きの少ない作品ですが、私は一番のお気に入りですね。
ユキカゼ、オトラ、クリ、三人の化けの心情の交錯が、時に厳しく時に温かく胸に迫り、大好きな一編です。
特に、化けの体で長い時を生きながら、人間のように涙を流し苦悩する弱い心を持ったユキカゼの存在を愛おしく感じます。
つくづく思うのですが、他の美少女ゲームの日常パートは、読むのがかったるいと感じることが多いですが、このサークル作品の日常はずっと読んでいたいと思えるくらい好きですね。

そして本作『大正決戦編』では、半世紀ぶりにハルカとユキカゼが再会し、それだけでもじーんとさせられます。
表面的には昔と変わらず接する二人ですが、時代を経て、その心の内は昔と変わっています。
そんな二人の心情の交錯には、ここまでシリーズを追ってきたプレイヤーには必然的に切ない気持ちにさせられます。
そこに新キャラの風子も関わってきますが、彼女のエピソードも感涙ものですね。
二人の関係は変わってしまったけど、新たな関係を築いた二人は、共に支えあい歩んでいきます。

本作では、国シリーズの根幹となる「天狗の国」も絡んできて、歴史が動いていきます。
次の昭和時代はどうなるのか、先が楽しみです。

ハルカ、ユキカゼ、オトラ、クリ、風子…。
彼女たちがどんな道を歩んでいくのか、じっくりその行く末を見守っていきたい、そんな気持ちにさせられるシリーズですね。
次回作を非常に楽しみにしています。