yukimuraのメモ帳 ver.2

妹と彼女 それぞれの選択

『妹と彼女 それぞれの選択』(2023)
評価 : ★★★★


新年一発目の感想記事です。
正月からずっと休んで、ちょっと文章の書き方を忘れちゃいそうな感じなので、スローペースで更新しながらリハビリしていこうかと思います。
(正直、今回の記事は技術的な分析をするほどの余裕がなかったので、大して上手く書けた自信はありません。)

Waffleから発売のノベルゲーム。
途中に選択肢は一切ないので、完全に物語を読ませるタイプの作品です。

Waffleはエロを重視した抜きゲー寄りのエロゲも多く手掛けていますが、シナリオ重視の読み応えのある作品も結構出しています。
本作は、同じくWaffleから発売された『初めての彼女』のスタッフによる新作で、あの作品のように丁寧な心理描写が特徴のシナリオ重視作品です。

内容としては、兄妹の近親愛をメインに据えた作品です。
互いを想い合いながらも過去の出来事から冷戦状態が続く兄の慧と妹の陽香、そんな二人の元に陽香と瓜二つの顔を持つ少女・満月が現れ、兄妹の関係を大きく変えていきます。

ゲームの構成としては、主人公視点の「慧主観ルート」から始まり、それが終わるとヒロイン視点の「陽香主観ルート」、最後にもう一つの可能性としての「満月同棲ルート」、合計3つのルートがあります。
スタッフ前作『初めての彼女』と同じような構成ですね。

まず本作、部分的には凄い作品であると思います。
近親相姦を扱ったエロゲは数あれど、本格的な近親愛をメインに据え、「互いを好きな兄と妹が結ばれるにはどうすればいいか?」を登場人物が真剣に悩み、ここまで真摯に取り組んだエロゲは他にあったでしょうか?

他のエロゲにありがちな、お兄ちゃん大好きな妹とエッチして結ばれて、周りもそれを祝福してくれてハッピーエンド、めでたしめでたし…。
もちろん、ユーザーに夢を見させてくれる、そういう作品だって必要でしょうし、一概に否定はしません。
しかし、現実的に考えれば、近親相姦とは本来禁忌であり、社会的に祝福されることはありません。

本作はそんな甘ったるい幻想のような作品とは真逆を行き、内容も純文学的です。
近親相姦を一要素として扱ったエロゲは多くありますが、それを主軸に据えて正面から描いた作品は、文学作品ではありますが、エロゲでは非常に珍しいと思います。
(私が忘れてたり無知なのかもしれないですが、もし過去のエロゲで類似作品を知っている人がいたら教えてください。)

特に「陽香主観ルート」は好きでしたね。
妹と結ばれるため答えを探し求める偏執的な兄・慧、兄妹に悪魔的な提案を持ち掛ける壊れた女・満月、二人に比べれば常識人の陽香ですが、彼女の兄を想い苦悩する様には愛おしさを感じましたし、そんな彼女が終盤に見せる狂おしさには深い感銘を受けました。

このルート単体で見れば素晴らしい作品だと言えますが、全体的に見るといろいろ勿体なかったですね。
「慧主観ルート」は、「陽香主観ルート」を終えた後だと、何だか長い前座のようにも感じました。
「満月同棲ルート」はエロシーン満載のエロ補完ルートのようで、私は無くても問題ないと感じました。
総合的には散漫な印象を受け、そのため私は、制作者が謳う「最高のやるせなさ」をいまいち感じられずに終わってしまいました。
「陽香主観ルート」を主軸にして、もっと作り込んでいれば、きっと素晴らしい名作になったと思いますし、後世に語り継がれる妹ゲーの代表作になったと思います。

今現在のエロゲ市場では、女性主人公の作品は受け入れられ難いのかもしれませんし、プレイヤーが感情移入しやすい男性主人公を配置しなければ売りにくいのかもしれません。
しかし、こうした人間を描くドラマ作品においては、感情移入できるかどうかは全てではないですし、主人公が男も女も関係ないと思います。
例え主人公達が感情移入できない特殊な人間であっても、そこから人間というものを見つめ直すことができる内容であれば、それで十分でしょう。
実際私は、世間一般とは違う感情を持つ彼らの生き方には、強い悲哀を感じました。

エロゲが衰退していると叫ばれる今日この頃ですが、そんな時代にこうしたシナリオ重視作品をプレイするユーザーは、決してそんなに狭量な心の持ち主ではないと思うので、クリエイターの方々もユーザーを信じて、もっと作りたいものを作って欲しいですね。
本作にも、エロゲは男性主人公じゃなきゃダメとか、エロシーンが多くなきゃダメとか、そういうエロゲの暗黙のルールによる縛りを感じてしまったので、まだまだ一つの作品として洗練させられる部分はあったでしょう。

いろいろ勿体ない部分もありましたが、「陽香主観ルート」は一見の価値ありですね。
世間に蔓延る甘ったるい妹ゲーとは一線を画す、本当の意味での妹ゲーを求めている人には、まさにうってつけの作品でしょう。
個人的にも、陽香という愛おしい妹キャラに出会えて良かったです。