yukimuraのメモ帳 ver.2

すずめの戸締まり

『すずめの戸締まり』(2022)
評価 : ★★★★★


久しぶりのアニメの感想記事です。
今年は新年早々痛ましい災害が起こってしまいましたが、そんな今だからこそ、もう一度観ておくべき作品だと思い、所持しているBlu-rayにて再鑑賞しました。
結果的に大正解で、前回よりも格段に面白く観ることができ、実に素晴らしい作品であると改めて感心させられました。

新海誠監督のアニメ映画。
君の名は。』『天気の子』に続いて、今回も災害を扱った内容で、本作では作中で明確に東日本大震災が扱われています。

新海監督の昔の作品は、センチメンタリズムの強い内容で、やや独善的な傾向もあり、いまいち心に響きにくい所がありました。
しかし、『君の名は。』以降の作品はグッと大衆的で正統派な作りとなり、より多くの人の琴線に響く作品が作れるようになりましたね。
この頃から「災害」が監督作品における一大テーマとなり、作品から新海監督の思いが感じられ、そこに監督自身の進境も感じられます。

そうした新海監督の進境を感じられず、作品のヒットを妬む一部のクリエイターや批評家が、「大衆に迎合した中身のない作品」「売れる要素を詰め込んだだけ」などと的外れで心ない発言をしていましたが、そんな連中には今後一切映画やアニメを観ないことをお薦めする。
良い作品の良さをきちんと測れない人間、ヒット作を叩いておけばマニアを気取れると勘違いしている人間、そんな馬鹿な連中でも批評家を名乗って偉ぶれる日本の批評界隈のレベルの低さには、私は失望を禁じ得ません。
素人ながらも真剣にやっている私のような人間にとっては、実に馬鹿馬鹿しくなります。

そして本作ですが、明確に2011年の東日本大震災を扱った内容ということで、監督にとって最も関心のある題材を満を持して描いた、監督の進境を最も感じられる作品となっています。
かつて2001年のアメリ同時多発テロを扱い、2011年に公開された『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』という映画がありましたが、あの作品の内容も頗る感動的でした。
やはり痛ましい大規模な事件を乗り越え、映画の題材として向き合えるようになるには、10年以上の歳月が必要になるということでしょう。
そんな本作も前述作同様に、頗る感動的な内容です。

作品の大まかな作りとしては、『君の名は。』以降の流れを踏襲しています。
実社会を反映した現実要素と神がかりな非現実要素、これらを絡めることで、現実を生きる我々の生活感情に訴えつつも、ファンタジー作品としてのエンターテイメント性・スペクタクル性を両立し、非常に魅力的で楽しめる作品になっています。

これまでの作品は、どちらかと言えば大スペクタクルの恋愛映画という感じで、恋愛感情が先行する作りのため、ストーリー的には強引な展開も見受けられました。
前作『天気の子』では、特にその傾向が顕著に見られましたが、そうした細かい欠点よりも、怒濤のアニメ描写で一気に見せ切るというタイプの作品でしたね。

本作がこれまでの作品と違う点としては、まず行動ありきで、そこに恋愛感情が後を追うという流れにしたことで、強引な展開がなくなり、ストーリーの骨格となる部分がしっかりしています。
民俗学を絡めた設定も前作よりも面白いです。

これまでの作品のような、挿入歌を多く使用したミュージックビデオ的な作りは抑え、全体的に作品としてより正攻法な作りになっています。
そのため、他の人の感想で見かけた「相変わらずの映像と音楽のゴリ押し」という意見は、全くの的外れです。
(一体作品の何を見ているんでしょうか?)

草太との日本各地の戸締まりの旅をするうち、次第に鈴芽の自分探しの旅へとシフトする流れも良かったですね。
そこに鈴芽が各地で出会う人々との温かい交流ぶりを描くことで、物語が強く彩られ、良質なロードムービーとして最後まで楽しめました。
クライマックスの鈴芽が過去の自分と向き合う場面も感動的です。

新海作品特有の美しく流麗なアニメーションも健在です。
実写の風景を元に描かれた背景も、非常にリアルで繊細で、いつもながら見事ですね。

これまで私は、新海誠監督の作品も面白く観させてもらいましたが、宮崎駿作品のテーマ性に比べれば相対的に浅いという印象がありました。
しかし、今回観た本作の出来は素晴らしく、その考えは改めるべきと感じました。
むしろ同時代的に見れば、『君たちはどう生きるか』を作った宮崎駿を凌いでいます。

再鑑賞した結果、新海誠監督で最も高く評価する作品となりました。
テーマ的にも実力的にも、新海誠監督は現代日本を代表するアニメ監督と言えましょう。