yukimuraのメモ帳 ver.2

姫の楽園

『姫の楽園』(2023)
評価 : ★★


同人サークル・サキュレントによるノベルゲーム。
途中に選択肢は一切ないので、完全に物語を読ませるタイプの作品です。

サキュレントのゲーム作品としては、本作がひとまず最後の作品となるようです。
シナリオライター・山野詠子氏のテキストが好きな私にとっては、非常に残念に思います。
これまでのサキュレント作品では、様々な苦しい状況に置かれた男女の関係を描いてきました。
そして本作では、ファンタジー世界を舞台とし、主役の姫様と彼女に隷属する二人の男、男女三人の関係を描いています。

相変わらず山野氏のテキストは良いですし、描かれる男女の関係性も心に来るものがあります。
他の美少女ゲームのキャラよりも、山野氏の描く人物には血肉が通っている感じがあり、私は好きなんですよね。
最終的な三人の関係性は、他者からは歪に見えても、そこには酷く純粋な愛情が感じられます。
温かい読後感があり、決して悪い作品ではないですし、一定の満足感が得られる作品であると思います。

しかし、個人的な評価は伸び悩む結果となりました。
その理由について説明していきましょう。

まず、サキュレント作品はどれもボリュームの少ない短編作品で、基本的にどの作品も2~3時間で読み終えるくらいです。
別に短いから駄目だと言いたいわけではなく、例え短くても純度の高い内容でしっかり描かれていれば、その分高い満足感が得られます。

例えば、私はサキュレント作品では『とも鳴りの舟』が一番好きなのですが、あの作品は現実世界を舞台に男女二人の関係を描いた、要素をできるだけ絞った純度の高い内容でした。
本作はまさにその真逆で、ファンタジー世界を舞台に男女三人の関係を描いています。

ファンタジー作品であれば、作品世界の説明に時間を費やさなければいけないですし、男女が三人に増えれば、その分心情の描写も増やさなければいけません。
要素が増えれば、その分ボリュームを増やさなければいけないのですが、それが出来ないのなら要素を絞る必要があります。
本作の場合、短編作品に多くの要素を持ち込んだため、全体としては過去作よりも純度は下がっています。

また、本作はファンタジーとしても他の作品でよく見られるような西洋風の魔法がある世界であり、個性としては薄いです。
私の考えでは、現実世界を舞台にした作品の場合は、少しの違いでも差別化に繋がりますが、本作のようなファンタジー世界を舞台にした作品の場合だと、その違いが大きくなければ差別化に繋がらないと思います。
(そのため私は、現在大量にアニメ化されている異世界転生系は、どれも同じに見えてしまいます。)
やはり私は、ファンタジー世界よりも現実世界、男女三人よりも男女二人のほうが、山野作品としては好ましいと思いますね。

内容的にも、過去作ほどの心を抉る描写はなく、全体的に少しソフトになっています。
特に、前作『月の女、河の天使、神めくとき。』が尖った内容だったので、それに比べると、どうしても薄味に感じてしまうと思います。
★3を付けた前作との差別化という意味でも、個人的にはワンランク下の評価にしておきます。

過去作と比べると個性が薄いので、どうしても辛い評価になってしまいます。
しかし改めて言いますが、私は山野詠子氏の描くシナリオが好きです。
好きだから甘めの評価にしようと考える人もいるでしょうが、それは私の役目ではないですし、むしろ好きだからこそ甘くすべきではないと思います。
事情があるので無理強いはできないと思いつつも、私は再び山野氏の作るゲームをプレイしたいと願っています。